「3回提案して3回却下」の若手が最初に聞かれたこと

研修のあとの個別相談で、入社4年目の方からこう言われたことがあります。「先輩に3回提案して、3回とも同じ理由で却下されました。あの人、頑固すぎませんか」。

で、こちらは聞くわけです。「先輩は、何を守ってると思います?」。しばらく固まって、出てきた答えが「……ミスを出さないこと、ですかね」でした。そこがスタートラインです。

悪気はゼロなんですよ、たぶん。譲らない人は、意地を張っているというより、守りたいものがはっきりしているだけのことが多い。この記事は、その「守っているもの」を4つの入口から読んで、切り出しの順番を変える話です。2026年10月時点で、私が研修と面談の現場で使っている形をそのまま書きます。

先に断っておくと、タイプは傾向であって、その人の全部ではありません。ここに出てくる型の名前は「当たりをつける道具」として読んでください。

頑固に見えるとき、相手の中で起きていること

交渉の定番書『Getting to Yes』(Fisher, Ury, Patton)は、ハーバード交渉プロジェクトの成果として知られています。その原則のひとつが「立場(position)ではなく利害(interests)に目を向ける」こと。ハーバードの交渉学プログラム(PON)も、表に出た要求の下にある本当の関心を探すことを勧めています。

職場に置き換えると簡単です。「それは無理」「前例がない」は立場。その下に「納期を守りたい」「チームの空気を壊したくない」「自分の判断軸を軽く扱われたくない」という守りたいものがある。

こちらが立場にぶつかると、向こうも立場で返します。譲れない者同士の押し相撲です。勝っても負けても、翌日の席が気まずい。

なので順番はこうです。説得の前に、守っているものを当てにいく。

譲らない理由の入口は、だいたい4つに分かれる

あくまで私が研修現場で拾ってきた分類で、学術的に確立した区分ではありません。流派によって見方も変わります。ただ、当たりをつけるには十分使えます。

守っているもの口から出やすい言葉タイプ論でいう近い動き
手順と実績「前からこうやってる」「まず確認してから」S寄り・J寄りの処理(過去の経験を土台にする)
筋の通り方「根拠は?」「理屈が合わない」T寄りの処理(論理の整合を優先)
人と価値観「あの人の気持ちは?」「そのやり方は違う気がする」F寄りの処理(関係や価値観を優先)
自分の裁量「ちょっと考えさせて」「今は決めたくない」P寄りの処理(選択肢を残したい)

一人が複数にまたがることも普通です。「ISTJだから手順」と決め打ちしないでください。同じタイプでも、育ちや今の役割でかなり振れます。見るのはタイプ名ではなく、相手が最初に口にする言葉です。

ちなみにThe Myers-Briggs Companyの公式資料(Myth Busting 2025)も、MBTIは能力ではなく好み(preference)を示すもので、どのタイプが優れているということはない、という立場です。タイプを「できる・できない」の物差しにしない、が前提になります。

入口別・切り出しの順番

手順と実績を守っている人には、「変えない部分」を先に言う

この入口の人は、変更そのものより「ミスが出るかもしれない」が怖い。だから提案の冒頭で、残す部分を宣言します。

「今の確認フローはそのまま残します。そのうえで、最後のチェックだけ1項目足したいです」。

全部ひっくり返すつもりはない、と伝わるだけで空気が変わります。

筋の通り方を守っている人には、結論と根拠をセットで出す

「なんとなく良さそうなので」は、この入口では一番通りません。数字でも前例でも、根拠を1つ添えます。

「結論は〇〇です。理由は、先月の対応時間が平均で2時間かかっていたからです」。

感情の話をするなら、根拠のあとに一言だけ。順番が逆だと、論理が穴だらけに見えます。

人と価値観を守っている人には、評価と気持ちを先に置く

「それ、〇〇さんの顔が立たなくなりませんか」のような反応が出る人です。論点より前に、相手の大事にしているものを認めます。

「ずっとお客様に丁寧に対応してきたの、すごいと思ってます。その丁寧さを残したまま、一部を効率化できないかを相談したいです」。

認めてから相談する。この順番だけで、聞く耳の開き方がまるで違います。

自分の裁量を守っている人には、決めるのを急がせない

締め切りを突きつけると固まるタイプの人です。選択肢を2つ出して、「どちらでも進められる状態にしてあります」と添えます。

「今日中」ではなく「金曜の午前までに、どちらかを教えてください」。期限は置く。でも選ぶ余地も残す。この両方が要ります。

いちばん最初に使う、質問ひとつ

入口を当てるのが難しいときは、当てずに聞いてしまうのが早いです。

「この件で、いちばん外したくないところはどこですか?」。

これは、交渉学でいう「立場の下の利害を聞く」を、職場の言葉にしたものです。反論でも詰問でもなく、相手の判断軸を尊重する質問なので、角が立ちにくい。

研修でこの質問を試してもらうと、受講者から「あの先輩が初めて自分から理由を話してくれました」という報告が出ます。話が通じなかったのではなく、聞かれたことがなかっただけ、というケースがけっこうあります。

ただし、うちの研修で効いた話なので、業種や職場の力関係によっては刺さらないこともあるかもしれません。上司に聞く場面では、言い方をやわらかくしてください。

やってはいけないのは、タイプでレッテルを貼ること

ここは苦い話です。以前、研修を入れた企業の人事から「配属の参考にしたい」と相談されたことがありました。断りきれず、参考程度という条件でタイプ別の傾向資料を渡しました。

半年後、現場では「あいつは〇〇型だから話が通じない」という言い方が定着していました。撤回と再研修に1年かかっています。

この経験から、私が決めたルールがあります。タイプは自分が相手との噛み合わせを探すために使う。人を評価したり、避けたり、選んだりするためには使わない。条件つきで許すと、線は必ず越えられます。

「あの人は頑固な型だから」と思った瞬間に、相手の守っているものを聞く手が止まります。それでは本末転倒です。

明日から何をするか

で、明日から何をするかって話なんですが、やることは3つだけです。

  1. 譲らない相手が最初に口にした言葉を、メモする(「前例」「根拠」「気持ち」「ちょっと待って」のどれか)
  2. 提案の冒頭に、相手の守っているものに合わせた一文を置く(残す部分、根拠、評価、期限の余地)
  3. それでも動かないときは「いちばん外したくないところはどこですか」と聞く

全部やらなくて大丈夫です。1個だけ、次の打ち合わせで試してください。一手だけ渡すのが定着のコツだと、10年やってきて思っています。

よくある質問

相手のタイプがわからないと使えませんか?

使えます。タイプ名よりも、相手が最初に口にする言葉のほうが手がかりになります。わからなければ「いちばん外したくないところは?」と聞くのが確実です。

上司が相手でも同じ順番でいいですか?

基本は同じです。ただ、上司には質問を「教えてください」の形にすると角が立ちません。たとえば「判断の軸を知っておきたいので、重視している点を伺えますか」と聞きます。

何度言っても変わらない人はどうしたらいいですか?

入口が合っていない可能性と、相手側の事情の可能性があります。2回試して反応が変わらなければ、第三者を交えて話すか、決める権限を持つ人に判断を預けるのも手です。

この考え方で相手のタイプを断定してもいいですか?

断定は勧めません。MBTIは好みの傾向を示すもので、能力や人柄の優劣を測るものではありません。当たりをつける補助として使ってください。

参考文献